▼==遠い人への手紙==▼




―・・・それはとても簡単な例え・・・。
わたしがスタートに立ちつくしてる時 キミはゴールの直前にいる
キミが高い塔の頂上にいる時 わたしはただ「高いなぁ」と見つめるだけ

――・・・こんなのがわたし達の関係 遠くて届かないそれがキミの存在・・・――


 お昼、広場でそわそわしてる少女を見てマーロは話しかけた。
「シャラ。何してるんだ?」
「あっ、マーロ君。あのね、今、お手紙の配達してたんだけど・・・。」
少女・・・シャラはそこで言葉を止め、手に持っていた手紙の住所を見た。
「道・・・分からないのか?」
「・・・・・・。」
シャラは頬を赤らめて恥ずかしそうにうなずく。
まだここに来て間もないから道を知らなくても当然なのだが
彼女は恥ずかしがりやで、しかも赤面性なのだ。
「教えてやるけど?」
「えっ!?そ、そそそんな、悪いよ・・・。」
口ではそう言いつつも目は嬉しそうにきらきら光っている。
「あんた,嘘吐くの下手だな。」
「ごめんなさい・・・。」
別に謝ることでもないが、マーロはつっこむことすら疲れてきたらしく、何も言わなかった。
「行くぞ!」
「へっ!?あ、はい。」
シャラはぱたぱたとマーロについていく。
歩き始めてから少し経ったとき、シャラが口を開く。
「マーロ君の魔法って強いよね?」
「ん?まぁな。」
「・・・・・・いいなぁ。わたしもあのくらいの魔法が使えればいいのに・・・。」
自慢げに答えるマーロにシャラはそう言った。
シャラは精霊使いだから、よく魔法学院にくるのだが、
やることの手際がいちいち悪く、なかなか上達しないのだった。
しかもその事を相当気にしている。
「あんた、魔法使いとしての素質は結構あると思うぜ?」
「えぇ!そんな・・・ばればれなおだてしなくていいよ。
 わたしなんて、先生に言われた事全然出来てないし・・・他の人より下手だし・・・。」
「それは、シャラが無理してるからだ、
 もっと自分に合ったやり方で練習すればすぐに上手くなる。」
「そ、そうかなぁ?」
「ああ、俺がまた今度教えてやるよ。」
「ほっ、本当!!?」
シャラがあんまり嬉しそうに言うのでマーロは思わず笑った。
「え?え?何かおかしかった?」
「いや・・・別に。ただあんたって本当に嘘吐けない奴なんだろうなと思ってさ。」
「・・・?」
「それより、次の手紙は何処なんだよ?」
「あ、うん。次はねぇ・・・」
シャラは手紙を鞄から取り出す。
「え〜っと・・・あっ!!」
住所を読もうとした次の瞬間、風が吹いて、手紙が飛ばされてしまった。
シャラは慌てて手紙を追いかける。
しかし、手紙にばかり気を取られていたせいで、
もうすぐ、川だということなどまったく気づいてない。
「やった!っと・・・きゃあ!」
シャラは手紙をつかんだが、足もとの川に落ちそうになった・・・が、
「シャラ!!」
ぎりぎりのところでマーロが手をひっぱってくれて、なんとか助かった。
「大丈夫か?」
「うん。マーロ君ごめんね。じゃあ、わたし残りの配達行くから・・・バイバイ。」
シャラは慌ただしく行ってしまった。
マーロは何となく嫌な気分になる。
確かにお礼を言われるために手伝ったわけじゃないけど、
だからって何も言わないのはいくら何でも、失礼だ。

そして、次の日。
マーロのもとに2通の手紙が届いていた。
1通は彼の母親のステラから。
少しくしゃっとなっているところから見て、昨日飛ばされた手紙はこれなのだろう。
もう1通の方は封筒に宛名がなかった。
マーロはその手紙を出して読んでみる。
手紙には『ありがとう。 しゃら』と、それだけが書かれていた。
でもそんな、直な文こそ、何事にも笑えるほど不器用で、
何事にも笑えるほど一生懸命なシャラらしい。
しかし、『あ』が『め』になりつつあるのが少し気になる。
きっとマーロは次シャラに合った時、魔法と一緒に字も教えるのだろう。

――・・・これは、シャラが届かなかった人に少し近づけかけた 小さなお話・・・――