***===ルーの心配事===***




「・・・今日は何かいいことがあるかもしれないケロ。外に出てみるケロ。」

 部屋に住み着いているかえるが、朝一番にそう言った。
 そう言われて本当にいいことがあったのはいまだ1回、
 あんまり真剣に期待できるものではないのだが。

「そっか。・・・久しぶりに行ってみようかな?」

 アルナは酒場を出、魔術学院へ足を運んだ。
 この頃仕事続きで顔を出せていなかった場所だ。

「おはよう、マーロ」
「ん?・・・アルナ?」
「こんな時間から勉強してるの?」
「・・・俺は暇じゃないからな。お前も忙しいんだろうけど」
「・・・・・・・」

 あまりいい顔をされなかったので、そのまま無言でスラムへ足を運ぶ。
 徹夜で飲み明かした連中がアルナをじろじろ見るが、気にしない。

「しばらく来なかったからって急につっけんどんになることないじゃん・・・」
なんてぶちぶちいいながら盗賊ギルドに入る。
 ルーが笑って迎え入れてくれた。
 他の団員がいる様子はないようだ。

「久しぶりー!このごろ来ないから心配してたんだよ?何かあった?」
「仕事続きで忙しかったんだ。ごめんね」
「そっか。謝らなくたっていいんだよ。お茶でも飲もっか♪」

 いそいそと奥から紅茶のビンを運び出してくる。
 こだわりの入れ方があるとかで、入れるのに10分ほど掛かったが、とてもおいしかった。

「おいしいでしょ?あたしのおばあちゃんが始めたんだよ」
「へぇ〜。すごいね。」
「うん、あたし、おばあちゃん大好きだったんだ。」

「じゃあこの紅茶がおいしいのは、ルーのおばあちゃんへの気持ちがこもってるからかな?」

「やだぁ、アルナってば。詩人〜っ」
「え???」

 きょとんとするアルナをくすっと笑って、ルーは身を乗り出した。

「そうだ、外いこ!どうせ皆も今いないんだしさ!」
「え?うん・・・」

 言われるままに引きずられて外に出るアルナ。
 頭にクエスチョンマークがたくさん出ているがルーは気にしない。

「いい天気だねー。こういう日に冒険に行きたいなぁ・・・」
「うん・・・でも」
「?」

 今まで冒険には、ルーとマーロばかり誘ってきた。
 しかし今マーロを誘っても断られそうだ。
 何となく嫌悪感が取り巻いて、ルーのテンションについていけない。

「どうしたの?でも何?」
「何でもないよ。」
「何でもなくないわよ〜。悩み事?」
「ううん・・・」
「言った方が気が楽になるわよ?」
「・・・・何にもないんだから言えないよ」
「もうッ、強情なんだから!何よ、呪いが恐いの?それとも恋のお悩み?」
「・・・・・ι」

 呪いからどうして恋のお悩みが出てくるのであろうか。

「いたッ!」

 俯いて歩いていたため、誰かとぶつかった。

「す、すいません・・・急いでいたもので」
「いえ、こちらこそよそ見しててごめんなさ・・・」
顔を上げて目が合った。

「あ゛」

「あれ、マーロじゃない。どしたの?」

 ルーは気楽ににこにこ笑っている。

「どうもしない」
「マーロ?」

 マーロはすっと立ち上がって行ってしまった。

「なーに、あの態度・・・。アルナ、大丈夫?」
「う、うん。」
「なんか変じゃない?マーロってあんな奴だった?」

「・・・もとからだよー。」
「そう?この頃アルナと仲良かったじゃん?」
「そんなことないって!」
「アハハハ、照れてるの?」
「ルーのいじわるっ;;」

「アルナ、広場へいこっか。」



 アルナとルーは大通りの広場に出かけた。
 するとカリンとリュッタに出会い、4人で日が暮れるまで遊んだ。
 初対面のルーとリュッタも仲良くなれたようだ。

「楽しかったね♪アルナ」
「うん。また4人でどこか遊びに行こうねっ」
「5人、でしょ?」
「ほへ?」

「アルナにはマーロがいないとね。悔しいけど、
 あたしじゃアルナを最高には喜ばせてあげられないみたい」
「え?なんでマーロが出てくるの?何言ってるの〜っ」

 ルーはアルナの頭をぺしっと叩いて

「何言ってるかわからないならあたしにとっては好都合ね。」

「・・・・・・・?」

「じゃ、バイバイ★また冒険に誘ってね!」


 そう言ってルーは早々と闇の中へ消えてしまった。


「・・・なんなの、もう・・・」





***次の日***

「・・・今日は何かいいことがあるかもしれないケロ。外に出ずに待ってるケロ。」
「え??」

 あまり聞かないセリフである。
 まあ、外も曇っているし、とりあえず部屋にいておくことにした。

「アルナ!」

 いきなりドアが開いて、レティルが入ってきた。

「レティル?どうしたの?」
「・・・電話よ。間違ってかかってきたの。」
「あ、ご、ごめんね。」
「ううん。それじゃ。」

 レティルが出て行ったのを確認すると、アルナは通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『アルナ?』
「え・・・ルー?どうしたの、こんなに朝早くから・・・」
『ううん、用事ってわけじゃないんだけど・・・』
「?」
『昨日の台詞の意味わかった?』
「・・・・・・・」

「・・・ううん」
『そっか。』
「なんで?」
『答え教えてあげよーかと思って。』
「・・・・・・・」

 ルーは電話の向こうでいじわるっぽく笑って

『恋は盲目、って言うじゃない?』
「へ・・・」

『この頃アルナ、マーロとめちゃくちゃ仲いいからさ。
 あたしの事なんてそっちのけになっちゃうんじゃないかって・・・』

「そ、そんなこと・・・」

『でも、その様子だとそんなに心配する事なかったかもね?ま、これからだけど♪』
「ちょっと、ルー!今笑ってない?笑ってるでしょー!」
『あはははは、アルナってやっぱりからかいがいがあるよ★』
「ルー・・・おもちゃにしてない?私のこと」
『してないよ。友達として面白おかしくしゃべってるだけじゃん』

 アルナはぷうっとほおを膨らませ、そのあと微笑んだ。
 
 電話の向こうでルーが微笑んでるのがわかった。


 そのまま電話を切り、ベッドに寝転んだ。



「このままでいつまでも続くといいな・・・・」





      ――――――――たとえ、呪いが解けなくても。
                            かえるに戻ってしまっても。



                      みんなのことだけは、忘れないよ。