肩の体温

ガタガタガタ……… 揺られる馬車の中、マーロはふと目を覚ました。 (眠って……たのか。) ***** 冒険が終わっての帰り道。マユミスティが「疲れたね」と言ったのがきっかけだった。
振り向いたマーロの目には、いつもよりちょっと疲れた顔の、彼女が写った。
精霊使いで、もともと体力の無い彼女。
その顔色があまり良くないのに気がついたのは、アルターの方だった。
「大丈夫か、マユミスティ。顔色悪ぃぜ?」
「えっ……?」
彼女は頬を押さえてマーロに振り返った。
「…そう?」
確かに、彼女の顔色は良くなかった。色の白い肌が、いつも以上に白かった。
マーロはそれに気がつけなかったことに舌打ちした。
「次の町で馬車使おうぜ。」
そんなマーロを違うように取ったのだろう。マユミスティは慌てて首を振った。
「い、いいよ!私は大丈夫だから。後少しだし、歩いていけるよ!」
マーロは遠慮する彼女の腕を掴むと、ぶっきらぼうに言った。
「無理するなよ。コロナまでの運賃くらい、おれが出してやるから。」
困った顔でアルターを見ると、彼も同じように笑って言った。
「オレたちに任せろって。…安心してていいからよ。」
その笑顔に、マユミスティは小さく頷いた。
「……ありがとう、ごめんね…。」


町についた頃には、彼女の顔色は更に悪くなっていた。
直ぐに馬車に乗れたのが、せめてもの幸い。
乗り込んで少しすると、マユミスティは静かな寝息を立て始めた。
「……疲れてたんだろうなぁ。」
そんな彼女を見て、アルターが独り言のように呟いた。
それもあるとは思うけれど。それだけではないということを、薄々だがマーロは感じていた。
気がつけなかっただけで、多分いつも。
(………無理してたんだろうな)
放っておくと、いつだって無茶をする彼女。
彼女が無鉄砲なのではなくて。
…そうしていないとダメなのだという現状は、理解しているつもりだが。


*****


マーロは自分が気付けなかったことに、腹を立てた。
(アルターは気がついたのに…)
普段は自分の方がしっかりしている、と自負していたのにも関らず、自分には分からなかった。
(……いつも見てたのに…)
側にいたのは自分なのに。
悔しいけれど今回は完敗だった。

ふと視線を向けると、アルターもいびきをかき始めていた。
「…………のんきなヤツだな…。」
徐々に大きくなるいびきを見つめていたマーロは、しばらくして大きなため息を落した。
(こんなやつに………)

ガタン!

石でも上ったのだろうか。突然、馬車が大きく揺れた。
その震動に、隣りで寝息を立てている、マユミスティの身体が傾いた。
―――あぶない!―――
マーロはとっさに彼女の肩を掴んで、自分の方に抱き寄せた。

ガタガタガタ………
馬車は静かに揺れている。
アルターは寝ている。
マユミスティも眠っている。
―――自分の肩で。

とっさのこととはいえ、ついとってしまった大胆な行動に、マーロはほんのり頬を染めた。
そのまま何も変わらない顔で、彼女は眠っている。
肩から、柔らかい体温と吐息が伝わる。

馬車は静かに揺れている。
アルターは寝ている。
マユミスティも眠っている。

マーロはマユミスティの桃色の頭に、そっと手を乗せた。
道はまだ安定しないから。また倒れそうになるといけないから。
まるで自分に言い聞かせるように、マーロは心で囁いた。
(…だからなんだ)

ようやく心臓が落ち着いてきた頃、肩でマユミスティの声が聞こえた。
「…マー………ロ…」
それに驚いて、マーロは慌てて彼女に視線を向けた。
彼女の瞳は、今だ閉ざされたままだった。
「…ね、寝言か……」
速いスピードで動き出した心臓に手を当て、マーロは『はぁー…』っとため息を付いた。
(おどかすなよ………)

先程よりも血色の良くなった顔で、彼女はまた同じリズムの寝息を立てる。
その吐息が随分と穏やかになっていることに気が付いて、マーロは安堵に顔を緩ませた。
(……なぁ、マユミスティ…?)
マーロは問い掛けた。
(おれは今のままで、お前の力になれてるか?)
今回は気がつけなかったけど。
(お前を…助けてやれるかな…?)
まだまだ自信なんてものは、持てやしないけど。
マーロの瞳が切なく揺れた、丁度その時。
聞こえたはずはないのに。彼女は眠っているはずなのに。
マーロは、ローブの裾に何かが引っかかったような気がして、視線を向けた。
…そこには、彼女の手があった。

(…………マユミスティ…)
まだ自信なんて、やっぱり持てないけど。
でもそれでも。
これからもずっと、側にいて力になりたい。その気持ちは変わらないから。
『出来ないなら出来るようになればいい。』
それは昔、自分が誰かに向けて言った言葉だったはず。
今の自分が嫌なのならば、歩き出すしかないのだから。
(…そう。そうだよな。)
後悔しても、確実に時間は進んでるのだから。後ろに戻ることなんて、出来ないのだから。

マーロは微笑んで、彼女の頭に軽く自分の頭を乗せた。
(いつかきっと……)
ガタガタと揺れる馬車の中、その揺れを子守唄に、マーロは再び目を閉じた。


*****


「…ったくよぉ、お前もやるよな!肩にはしっかり手が回ってるしよ。こう、自分の方に抱き寄せて…」
「うるさいうるさい!!」
「けどあれはよ…」
「だから違うって言ってんだろ?!」

馬車を降りて、そこからコロナまでの帰り道。
アルターは少し悔しそうに…いや、どこか嬉しそうにマーロをからかっていた。
馬車での一件のことを、である。
最初に目を覚ましたアルターは、真っ赤な顔で、
でもマーロの肩に乗ったまま大人しくしているマユミスティを目撃した。
マーロを気遣って、そのままでいた彼女。
そして彼女を気遣って、そっと腕を回したマーロ。
こんな二人に少し当てられたのも事実だが、それ以上に、なんだか微笑ましく感じてしまったのも事実。
ついどつくようにして、マーロの頭を叩いた。
「なにやってんだよ!」
怒ったからではなくて、『やるじゃねぇか』の意味を込めて。

「あれは、馬車が揺れて倒れそうになってたんだって!それを支えただけだよ!」
「照れるな照れるな!お前ら、結構いい感じだったぜ?」
その言葉に、二人の頬が同時に染まった。
「ばっ……!!」
それ以上、何も言えなくなってしまったマーロは、ぷいっと背を向け先を歩き出した。
「もういい!バカには話さない!!」
怒ってしまったマーロにぷっと吹き出して、アルターは豪快に笑った。
「すねんな、すねんな。ちゃんと認めろよ、手出したんだからな!」
「出してねえよ!!」


そんな二人のやりとりを、マユミスティは幸せそうに見つめた。
ここに来て、皆に出会って。仲良くなって、大切になって。
呪いなどをもった自分なのに、大切にしてくれる人たちがいて。
(…私はなんて幸せなんだろう…)
胸に浮んだ暖かい気持ちに、マユミスティはまた微笑んだ。
そして首を傾げた。
(あれ…?さっき……)
どこかで同じような感覚になった気がしたのだが。
(どこでだっけ………?)
一瞬、頭に何かが過ぎった。
(そうだ。夢だ…)
思い出した。

―――側にいるから。
―――ずっと、いつだって守るから。
―――ずっと……一緒にいるから…

まどろみの中での不思議な響き。
この時聞こえた、誰かの声は。
優しくて甘い、幸せな気持ちは。


「マユミスティ、置いてくぞ!」
マーロの声がした。
アルターも『早く来いよ!』と呼ぶ。
彼女は微笑んだ。
「待って、今行く!」

誰のものかは分からないけど、でも彼女には。
…分かったような、そんな気がした。


                                 <FIN>
















こんにちは愛名です。この度は同盟参加者100名突破、おめでとうございます!
この調子で「かえるの絵本ラブ!」という人たちが集まって下さると嬉しいですね〜vv
そしてゆくゆくはイベントなどで、「かえるの絵本」というコーナーを設置してほしいものです。(爆)

今回もラブラブ物になってしまいましたが、これでも別のことをやってみよう!と思っていたんですよ〜。
始めは季節物の予定でしたし。
でも、全然思い浮かばなくて、結局いつもの鞘に収まった、という感じなのですが。(汗)
いつもの感じとは変えたくて、頑張ってはみたのですが、いかがでしたでしょうか?あんまり変わってないかな…

そして銀河さんには御迷惑をお掛けしました…。(汗)
わざわざ書き直すなら、最初からこうしとけ!って感じでしたね(汗)すいません、今思いついたんです。(爆)
ショートショートもいいところだったのですが、書き直したら結構な長さ…?
でも本人はこれが書けて、訂正できて大満足です!(そりゃそうだろう)
多少無理してでも参加させて頂いたかいがありましたvありがとうございました!

今後のかえる同盟に、幸多きことを願って………。愛名真弓 拝


銀河@管理人:
祝いコメント有難いですーvvv(嬉
今もスローペースとは云え着実に同盟参加者様増えてますしねー♪
いやはや有難いものですナリvvv
イベントでコーナーは凄い夢ですよね(笑)前にお話ししてましたねー、
かえるの絵本で壁スペース取れる位大手になれたら、って(笑)
とりあえず部分的コーナーは出来てたので上手く行けば・・・!!!(遠いな

そして素敵で綺麗な作品も有難う御座いました・・・vvv
愛名さんストーリーは凄く綺麗で透明感なカンジでラヴです・・・♪
今回はホントに有難う御座いました!!
これからも同盟共々宜しくですー(ぺこり)