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狭いけど、こざっぱりした宿の一室。
白いペンキを塗り替えたばかりの窓枠の上には、モスグリーンのカエルが一匹乗っていて、うらうらと差し込むお昼過ぎのお日様の中で、うつらうつらとお昼寝中でした。
…と、静けさを突き破ってばたばたと足音が近づいてきました。
ゆったりしていた空気を思い切りかき混ぜて騒々しく駆け込んできたのは、まだ幼い一人の女の子でした。
文字通り燃えるように赤い髪の毛が、ぱっと目を引きます。
「おじいさん、手紙!」
女の子は、大きな声で叫びながら、カエルのいる窓枠に飛びつきました。
カエルがゆっくりとまぶたを持ち上げる、その鼻先に封筒を押し付けんばかりにして、
「ほらほら、おじいさんったら! 手紙だよ!」
どっこいしょ、と体を持ち上げかけたカエルは、突き出された手紙に危うく窓枠から落っこちそうになり、とがめるような目で女の子を見上げて、グググと喉を鳴らしました。
女の子は、カエルの抗議なんか気に留める様子もなく、カエルの目のすぐ前に、手紙の裏の、差出人の名前を突きつけました。
「ほら!」
カエルは、やれやれとちょっと首を振ると、ぐいと体をのけぞらせて差出人の名を眺め、嬉しそうに目を細めました。
「開けていいでしょ、読んであげる!」
女の子はわくわくとたずねました。
自分の生まれる前…女の子にとってははるかな昔々…に、この街に居た竜殺しの英雄の名前は、7つになるこの子には、どうしても覚えることが出来ません。
その人が自分の父親の親友だということにも、全然ピンときません。
でも、冒険者宿の一室に住みついた年寄りのカエルのところに、毎年一通の手紙が届くことは、女の子にとってこれ以上ないほど不思議で、楽しくて、わくわくすることでした。
この子にとって、その人は昔の英雄ではなく、妖精の国に住んでいる「手紙の差出人」だったのです。
カエルがうなずくのをちゃんと確認しているのかどうか。女の子は豪快に封筒の口を破り開けると、よみやすく丁寧に書かれた手紙を、たどたどしく大きな声で読み始めました。
〜 Fin 〜
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