夢を見た。
コロナにいた頃の、夢。
マーロに初めて会った頃の・・・・・・夢。
ゆっくりと目を開けた。
目を開けても入ってくる光はほとんどなくて、まだ夜明け前なことをはっきりしない頭で理解する。
カーテンの隙間から入る微かな光 ― 月明かりだろうか ― が、室内をぼんやりと照らしていた。
「いま・・・・・・何時?」
身体を起こして枕もとの時計を見た。
時刻は4時20分、なるほど、まだ太陽はこの世界を照らしていない。
小さく息をついて、隣で寝ているマーロに目を落とした。
私の方に背を向けて、規則正しい寝息を立てている。
― 良かった、起こしてなくて。
マーロは睡眠が浅いわけではないだろうけど、寝ている時でも少しの物音に敏感だ。
昨夜も遅くまで本を読んでいたみたいだから、朝まで寝かせてあげたい。
マーロを起こさないように気を配りながらベッドから降りた。
起きるにはまだ早すぎる時間だけど、目が冴えてしまっている。・・・もう眠れそうにない。
特に何かしたいわけではなかったけど、何となくベランダに出た。
まだ暗い空に瞬く星と、輝く月。
室内を照らしていたのは、やっぱり月の光だったみたいだ。
吐く息は、白。
「みんな、元気かな・・・・・・」
コロナを旅立ってマーロと二人で旅をするようになって、久しい。
その間、一回もコロナには戻っていない。
戻りたくないわけではなくて、ただ、忙しかったり、時間が合わなかったり。
マーロがいるから寂しくはないけど、ときどき会いたくなる。
ときどき、帰りたくなる。
暖かすぎる、あの場所に。
あの街で私は、たくさんのものをもらった。
― 私はみんなに何か・・・・・・してあげられたのかなぁ・・・。
マーロには、昔からたくさん支えてもらったし、助けてもらった。
今だって、マーロがいなければ私は・・・・・・たぶん、何もできない。
二人でいることの心地よさを知ってしまったから。覚えてしまったから。
一人ではもう・・・・・・生きていけないように思う。
― 昔は一人でいるコトが当たり前だったのに・・・・・・。
けど、マーロは?
マーロは、私といるコトどう思っているんだろう。
好きだ、と言ってくれるコトを疑っているわけじゃない。
いま一緒にいてくれるマーロの気持ちを疑っているわけじゃない。
― けど・・・・・・けど、ね・・・・・・。
「・・・・・・風邪、ひくと思うんだけど」
「!?!?!?!」
突然聞こえたマーロの声。
驚いて振り返れば、微妙に髪に寝ぐせのついたマーロが立っていた。
「お・・・・・・起きて、たの?」
「あんたが起きたときに起きた」
「ご、ごめん・・・・・・」
やはり、あの時に起きていたのだ。申し訳ないことをしてしまった。
「・・・何してんだよ?」
「え・・・、と・・・・・・考え事・・・・・・」
「ふぅん」
マーロはそう、一言だけ返す。
たぶん、興味がないとかじゃなくて、眠いから早く切り上げたいとかじゃなくて。
・・・私が言い出すのを待っている、んだ。
「マーロ・・・・・・あの、あの・・・・・・ね・・・・・・」
「なに?」
「あの、・・・・・・だから・・・その、」
マーロに、たくさん支えてもらってる。
私は・・・・・・その分だけ、その分以上に・・・・・・あなたに返せている?
そう聞くだけなのに、どうして、・・・・・・聞けないんだろう。
「・・・・・・あのさ、」
どう言い出そうか考えあぐねていると、マーロの呆れたような声。
「全部 口に出てるんだけど」
「えっ・・・・・・」
慌てて両手で口を押さえてみるけど、時すでに遅し。
「そんなこと考えてたのか?」
声だけでなく、表情も呆れそのものが表れている。
肯定を声に出すまでもなく、もうマーロにはわかってしまっているから。
二人の間を冷たい風が吹き抜けて。
「・・・・・・うん」
風に乗せるように、肯定を唇に乗せた。
はぁ、
聞こえたのはマーロの溜息だった。
小さいはずの溜息がやけにはっきり聞こえたのは、静かな空間のせい?
それとも、悩みがくだらないって自分でもわかってるせい?
「あのな・・・あんたは、あんたが思ってる以上に俺を支えてる。くだらないことで悩むな」
月明かりだけの中ではマーロの顔ははっきり見えなかったけど、優しく笑ってる、気がした。
「あんたは俺の傍にいてくれれば良いんだ」
いつも通り言葉だけ聞けば冷たいものかも知れないけど、気持ちはきっと優しいもの。
「うん・・・・・・ありがとう」
「・・・寝ようぜ。明日は依頼もあるんだから」
手を引かれて、ベッドへ戻る。
また、眠れそうな気がした。
きっと次に目を覚ますときは、朝陽の中、明るい笑顔で。
〜 Fin 〜
|